東京高等裁判所 昭和57年(う)1610号 判決 1983年5月18日
控訴人 被告人
被告人 石戸勝夫
弁護人 市東譲吉
検察官 小川源一郎
主文
原判決中被告人に関する部分を破棄する。
被告人を懲役六年に処する。
原審における未決勾留日数中二〇〇日を右刑に算入する。
押収してある回転式けん銃七丁(当庁昭和五七年押第五五一号の1、5ないし10)、けん銃用実包一四八発(そのうち一五発は試射済み)(同押号の11、12)及び真正けん銃一丁(同押号の17)を被告人から没収する。
被告人から金一八二万六三二九円を追徴する。
原審における訴訟費用は被告人の負担とする。
理由
本件控訴の趣意は、被告人名義及び弁護人名義の各控訴趣意書に、これに対する答弁は、検察官宮本喜光名義の答弁書(なお、検察官は、第二追徴についての部分は削除する旨陳述した。)及び同小林幹男名義の補充答弁書にそれぞれ記載されたとおりであるから、これらを引用する。
弁護人の控訴趣意第一、第二の1から5まで及び被告人の控訴趣意第一から第五までの各事実の誤認の主張について
所論は、要するに、原判示第一の一、二及び四の各(一)の事実のうち、営利目的によるけん銃輸入の点に関し、被告人の右各けん銃輸入には営利の目的がなかつたのに、被告人の右各所為に営利の目的があつたと認定した原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認がある、というのである。
そこで、調査すると、原判決が原判示第一の一、二及び四の各(一)の事実の関係で挙示する関係各証拠を総合すれば、被告人の右各けん銃輸入の所為に営利の目的があつたと認定した原判決の判断は、正当としてこれを是認することができる。
所論にかんがみ更に判断を加える。
まず、原判示第一、一、(一)のけん銃輸入にあたり、被告人に営利の目的があつたかを検討する。
関係各証拠によれば、被告人は、昭和五五年四月上旬ころ在米中の三浦誠(原審相被告人)に何回も国際電話をかけ、同人に対し、過激派による政治的テロから日本の政財界要人を私的に防衛する国家安全保障協会という全くの虚偽の民間団体の役員を詐称し、私的に米国のけん銃・実包を入手することを依頼し、同人の承諾を得た後、更に同人をしてけん銃等を秘密裡に日本国内に持ち込むことまで依頼してその承諾を得たこと、三浦は、当時被告人とは国際電話で話したのみで、全く面識がなく、被告人以外に共犯者のいることも知らず、もとより被告人その他共犯者との間に個人的縁故が皆無であり、したがつて、被告人の提示した高額の財産上の利益を得たいためだけの理由で被告人の右申出を承認したこと、三浦は、被告人から、当時米国で一〇一〇ドルで入手できる実包二五〇発つきのけん銃五丁(けん銃一丁二〇〇ドル、実包五〇発入り一箱二ドル)を日本国内で引き渡す代りに旅費一〇〇〇ドル分を含めて六〇〇〇ドルを与える旨の約束を取り付け、また、要求どおり同人の米国内銀行口座への振込みの方法により内金三五〇〇ドルの前払いを受け、違法な輸入と知りつつ、同年五月四日けん銃五丁等を携帯して日本国内に入国して、その密輸入を実行し、同月五日東京都渋谷区内東急イン・ホテルで被告人及び渡部隆の両名にけん銃五丁等を引き渡し、残金二五〇〇ドルを受領したこと、右けん銃等はすべて渡部の手を経て宮島裕侑の手中に帰したこと、渡部は宮島が組長である暴力団住吉連合幸平一家池田会宮島組に所属し、宮島の指示により本件に関与したこと、宮島は、所属の上部団体における自己の地位の向上に資する目的とともに、右けん銃等を暴力団関係者に密売して財産上の利益を得る目的で原判示第一の一のけん銃等の密輸を計画し、すべての資金を出し、自分では表に出ず、渡部をして被告人と接触させ、右密輸けん銃等を収受し、これらの一部を隠匿して自己の支配下に置き、一部を他に処分したこと、被告人は、右密輸により三浦及び宮島に財産上の利益がもたらされることを察知しかつそれを自己の利益(被告人の利益が後記のとおり財産上の利益を含むといえる。)のためにも積極的に認容しつつ、三浦、宮島及び渡部と相互に役割を分担して一体となつてけん銃等の輸入を実現する意思で、右密輸入に関与したことを認めることができる。右の諸事実に照らすと、被告人は、三浦及び宮島に財産上の利益を得させることを動機・目的として原判示第一の一の(一)のけん銃輸入に関与したと認められるから、被告人に営利の目的があつたことは明らかである(最高裁昭和五七年六月二八日第一小法廷決定・刑集三六巻五号六八一頁参照)。
のみならず、関係証拠によれば、被告人は、前記のように在米中の三浦に国際電話をかけ、けん銃等の入手方を依頼する以前すでに渡部を介して宮島に対しけん銃等を密輸入して交付する旨を約束していたこと、被告人は、経過の端緒に一部明確でない点があるものの、渡部ら宮島の輩下に脅迫されたりして、遅くとも右国際電話の前に、昭和五五年三月初旬に受領した宮島支出の金員の額よりはるかに高額の三〇〇万円の債務を宮島に対し承認せざるを得なくなつていたのであつて、その弁済の一方法としてけん銃等密輸入の右約束をしたものであること、被告人は、自己の宮島に対する右債務の全部又は一部を消滅させるためにも原判示第一の一の犯行に関与したことを認めることができる。所論は、被告人が渡部ら宮島の輩下に脅迫されてした宮島に対する債務承認行為が無効であるとして、この無効な債務を消滅させる目的は営利の目的に当らないと主張するけれども、たとえ被告人の右債務承認行為が公序良俗に反し無効であるとの前提に立つて考察しても、営利の目的がないとする所論の結論に賛成することはできない。銃砲刀剣類所持等取締法三一条二項が営利の目的をもつてする同条一項の所為にその目的のない所為より重い刑を定めている趣旨にかんがみれば、右の営利の目的とは、事実として、けん銃の密輸入により財産上の利益を得又は第三者に得させる目的を指し、必ずしも民事法上適法有効である財産上の利益、すなわち、民事法上裁判所に訴求できる利益ないしは裁判所で是認される利益を得又は得させる目的に限定されることはないと解するのが相当である。けだし、元来密輸入に関連する法律行為は概ね民事法上無効であるから、営利の目的から民事法上無効である財産上の利益を得又は得させる目的を除外しては立法の趣旨を没却するおそれがあるからである。被告人の前記債務の承認が民事法上無効であるとしても、右承認にかかる被告人の宮島に対する債務は、金員の支払いを内容とし、事実として被告人の財産的な負担となるものであるから、被告人の右負担の全部又は一部を消滅させる目的は営利の目的に該当するといわなければならない。被告人が宮島の輩下に脅迫されたりして右犯行に関与したことは前記のとおりであるが、それは、被告人が警察等に救助を求める余地のあるなかで、自由に選択した結果の行動であるから、脅迫されたことが被告人の営利の目的を否定する理由にはならない。この点からも被告人の原判示第一の一の(一)のけん銃密輸には営利の目的があつたと認められる。したがつて、右のけん銃輸入に被告人の営利の目的を認めた原判決の判断は相当である。
次に原判示第一の二の(一)のけん銃輸入の場合について検討すると、被告人の司法警察員に対する昭和五六年八月四日付供述調書その他関係各証拠によれば、被告人は、原判示第一の一の密輸けん銃が小型であつたため宮島の満足を得られず、その密輸により自己の宮島に対する債務の減少に役立たなかつたため、更に宮島の指示のもとで継続してけん銃・けん銃用実包の密輸に従事することとなつたこと、被告人は、原判示第一の一の犯行の後には自ら渡米し、米国で三浦からけん銃・実包を受領し、携帯して入国する方法に切り替え、原判示第一の二の際も、自ら携帯してけん銃一三丁・けん銃用実包六五〇発位を密輸入したが、これらのうち、けん銃九丁と実包を宮島に渡す分として渡部に交付したほか、宮島に隠れて、自分で宇野充展にけん銃三丁(三浦から入手価格三三万七五〇〇円)を九〇万円で、大谷義人に一丁(同入手価格二二万五〇〇〇円)を三二万五〇〇〇円でそれぞれ実包を付けて売却し、その差益を得て、自己の生活費等に費消したこと、被告人はこの当時宮島からけん銃・実包やポルノの輸入に従事する手当として月三〇万円の支給を受けていたことを認めることができる。したがつて、被告人は、原判示第一の二の(一)の場合には前同様の営利の目的をもつていたと認められるうえに、自ら密輸けん銃の一部を転売して売却差益を得る目的及び宮島から密輸に従事することへの対価である金員を受ける目的をもつていたと推認できるのであつて、被告人の右犯行に営利の目的を認めた原判決の認定も十分支持することができる。
更に、原判示第一の四の(一)の場合についても、被告人には基本的に原判示第一の一の(一)のときと同様の営利の目的があつたと認められるばかりでなく、関係各証拠によれば、被告人が昭和五五年八月当時も同年六月、七月と同様に約束どおり宮島からけん銃等密輸の対価として月三〇万円の手当を受けられると期待していたことが認められるから、この点でも、被告人の原判示第一の四の(一)のけん銃輸入に営利の目的があつたと言うことができ、右営利の目的を認めた原判決の判断も肯認するこどができる。
なお、所論は、弁護人の控訴趣意第一及び第二並びに被告人の控訴趣意第一から第五までにおいて、原判示第一の<犯行に至る経緯>、特に、被告人が川端文雄を介して宮島裕侑を知る端緒の事情、被告人が昭和五五年三月初旬に受け取つた宮島支出の金員の額・性質・直接の授受当事者及び右金員の性質に対する被告人の認識等についての原判決の認定に事実の誤認があるとして、種々主張するけれども、右所論の問題とする各事実は、要するに、被告人の本件各犯行における地位・役割若しくは関与程度等に若干影響を与え得る情状事実であるほかには、原判示第一の一、二及び四の各(一)のけん銃輸入に被告人の営利目的があつたか否かの主題にとつては、わずかに間接的に関連する事実に過ぎないから、仮に原判決の犯行の端緒事情等所論の点に関する認定に一部誤りがあると見ても、原判決の<罪となるべき事実>の認定を支持する当裁判所の判断の結論を動かすに足りない。
このように、原判示第一の一、二及び四の各(一)のけん銃輸入に被告人の営利目的を肯定した原判決に事実の誤認はなく、論旨は理由がない。
弁護人の控訴趣意第二の1から5までのうち、法令適用の誤りの主張について
所論は、要するに、原判決は、「もとより負債を免れる意図も営利の目的にあたる」とし、原判示第一の一、二及び四の各(一)のけん銃輸入の際、被告人が抱いていた被告人の宮島裕侑に対する無効な債務を消滅させる目的も銃砲刀剣類所持等取締法三一条二項にいう「営利の目的」に該当する旨判示したが、右解釈は誤りであり、それは判決に影響を及ぼすことが明らかである、というのである。
しかし、前叙のとおり、原判決の右「営利の目的」に関する法律の解釈適用は正当であるから、原判決には所論の法令適用の誤りはなく、論旨は理由がない。
被告人の控訴趣意第六の事実誤認の主張について
所論は、要するに、原判決は、原判示第二の<犯行に至る経緯>において、被告人は川端文雄に「宮島に対する借金を肩代わりしてやるから、けん銃密輸入を手伝つてくれ。アメリカに知り合いがいるだろうから手にいれてくれないか。」などと話しかけた旨判示し、あたかも川端がけん銃密輸入に関与するようになつたことが被告人に基因するかのように認定しているが、これは、全くの誤りであつて、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認である、というのである。
そこで、調査すると、原判決が原判示第二の各事実について挙示する関係各証拠を総合すれば、所論の点に関する原判示第二の<犯行に至る経緯>の認定は、優にこれを是認することができるばかりでなく(当審における事実取調べの結果によつても原判示の点に関する川端の供述の信用性を否定することはできない。)、所論が問題とする右事実は、刑の量定に関する一事情であるに過ぎず、原判示第二の各罪となるべき事実の認定の是非に関連がない事実であるから、仮に所論のとおり誤認があるとしても、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認であるとはいえない。論旨は理由がない。
弁護人の控訴趣意第二、6及び被告人の控訴趣意第七の追徴に関する事実の誤認又は法令適用の誤りの主張について(被告人の控訴趣意は、関税法違反の刑の量定不当と題しているけれども、その実質において事実誤認又は法令適用の誤りの主張と認められる。)
所論は、要するに、原判決は、税関長の許可なく輸入しかつ不正の行為により関税の納付を免れた原判示けん銃・実包の一部を没収することができない場合又は没収しない場合に該当するとして、それらの価額二四五万七三四四円を被告人から追徴したが、これらのうち、(イ)原判示第一の四の(二)のけん銃(スターリング)一丁及び付属の実包四発は、秋吉誠也が、昭和五六年一〇月一六日福岡地方裁判所で殺人未遂、銃砲刀剣類所特等取締法違反及び火薬類取締法違反の罪により有罪判決を受けた際、その組成・供用物件として没収され、また、(ロ)原判示第二の二の(二)のけん銃(バツクアツプ)二丁及び付属の実包は、佐久間国夫が、東京地方裁判所で昭和五六年一一月九日銃砲刀剣類所持等取締法違反及び火薬類取締法違反等の罪により有罪判決を受けた際、各組成物件として没収され、いずれもそれらの所有権が国庫に帰属するにいたつたものであるうえ、右秋吉誠也及び佐久間国夫はそれぞれ右各けん銃・実包が関税法上の犯罪貨物であるとの情を知つてこれらを取得していたのであり、すでに本件に関する没収の目的が実現されているのであるから、確立された判例により更に被告人からその価額を追徴することは許されないのに、追徴に関する要件事実を誤認し又は法令の解釈適用を誤つて前記のように追徴した原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認又は法令適用の誤りがある、というのである。
そこで、調査すると、当審における事実取調べの結果を含めた関係各証拠によれば、原判示第一の四の(二)のけん銃(スターリング)一丁及び実包四発は所論(イ)のとおり秋吉誠也に対する殺人未遂等被告事件の有罪判決によりその組成・供用物件として刑法一九条一項一号、二号、二項により没収され、昭和五七年六月一八日の右判決確定に基づき没収の執行を終了していることが認められるばかりでなく、関係各証拠により認められる諸事情、特に、被告人及び川端文雄が原判示第二の二の犯行により密輸入したバツクアツプ二丁と佐久間国夫から没収されたバツクアツプ二丁の品種・銘柄・銃番号抹消痕に関する類似性、被告人らがガン・シヨウ(銃器見本市)で自己使用分として原判示第二の二のときのみバツクアツプ二丁を購入し、試射の後、使い難いとして、宮島に交付すべきものと予定していた他のけん銃二丁と取り替えたという犯行の経緯、池田会原田芳の舎弟佐久間国夫にバツクアツプ二丁を含むけん銃・実包を預けた池田会毛木組長毛木太一は宮島が会長代行をする池田会の武器担当であるという人的関係に照らして、佐久間国夫から所論(ロ)のとおり没収され、その執行を済ませたけん銃・実包のうち、自動式けん銃(バツクアツプ)二丁(警視庁科学捜査研究所主事三宅勝二作成の鑑定書謄本の番号一一、一二のもの)及びこれに適合する〇・三八インチ自動式けん銃用実包五発(右三宅鑑定書の番号一五のもの)は、被告人らが原判示第二の二の(二)の犯行により密輸入した犯罪貨物であると認めるのが相当である(右実包は原判決別表の第二の二の(二)欄の九ミリ口径用実包に照応する。)。
ところで、関税法一一八条による犯罪貨物の価額の追徴については、没収対象物がすでに複数の関税犯則者(事後従犯の性質を持つ関税法一一二条の犯則者を含む。)の或る者に対する裁判により没収され、又は通告処分により納付を命ぜられて、国庫に帰属したときは、他の関税犯則者からその没収に代り当該物の価額を追徴することは許されないと解すべきところ(最高裁昭和三八年一二月四日大法廷判決・刑集一七巻一二号二四一五頁、同三六年一二月一四日第一小法廷判決・刑集一五巻一一号一八四五頁参照)、関税法上の犯罪貨物である物件が同法以外の法令の規定により没収されているときであつても、衡平の観念に照らして右没収が関税法による没収と同視できる場合には右と同様に解するのが相当である。そして、被没収者が関税法上の犯罪貨物である当該物件をその情を知つて取得しているなど実質上の関税犯則者であつて、もし訴追されていれば、関税法によつても没収されていたと認められる場合には、関税法によらないその没収も関税法による没収と同視できるものというべきである。
この見地に立つて本件を見ると、まず、秋吉誠也については、同人の司法警察員に対する供述調書謄本その他関係各証拠によれば、同人が昭和五五年八月中旬ころ熊本競輪場において「ひつちやん」なる人物から原判示第一の四の(二)の犯罪貨物である所論のけん銃(スターリング)一丁及び実包五発(一発は後に発射)を関税法上の犯罪貨物とは知らないで三〇万円で買い受けたものと認められるから、秋吉が善意で取得したものとした原判決の判断はこれを是認することができる。次に、佐久間国夫が、原判示第二の二の(二)の犯罪貨物である所論の自動式けん銃(バツクアツプ)二丁及び付属の実包五発の所持を開始した際、その情を知つていたかを検討すると、渡部隆の司法警察員に対する昭和五七年二月三日付供述調書により、同人が原判示第二の二の密輸に先立ち昭和五六年四月一六日宮島裕侑の指示を受けて電話で池田会原田組関係の佐久間と連絡を取り、同日渋谷区内の喫茶店で、別に被告人の原判示第二の一の犯行により密輸入した三八口径回転式けん銃二丁及び実包六〇発を佐久間に渡したことが認められるから、この事実に渡部隆・宮島裕侑ら暴力団の人脈及び本件各密輸の状況等を併せ考えれば、佐久間国夫は、原判示第二の二のバツクアツプ二丁及び付属の実包五発の所持を開始した際にそれらが関税法上の犯罪貨物であるとの情を知つていたものと推認することができる。また、原審記録の関係証拠に被告人作成の昭和五八年四月二七日付書面その他当審における事実取調べの結果を加えて、職権により調査すると、佐久間国夫が前記バツクアツプと同様に所持していたため同人から没収されたその余のけん銃・実包中、被告人らの密輸したけん銃と品種銘柄の合致する三八口径回転式けん銃(真正のSアンドW三丁、インター・アームズ〔ロツシー〕四丁、チヤーター・アームズ二丁、以上三宅鑑定書の番号一から六まで、警視庁科学捜査研究所主事大町茂作成の鑑定書謄本の番号一から三までのもの)九丁及びこれに適合する三八口径回転式けん銃用実包七六発(三宅鑑定書の番号一六、一七、大町鑑定書九、一〇のもの)は、被告人らが密輸したけん銃・実包で、佐久間において渡部隆から渡されるなどの経路で所持するにいたつたものと認められる。被告人は、本件で起訴されている場合以外でも、同様方法でけん銃・実包を密輸入しているので、佐久間の所持に帰したけん銃・実包が起訴されていない被告人の密輸にかかるものである疑いもあるけれども、この点について被告人に不利に解すべき格別の反証がないうえ、被告人作成の前記書面及びけん銃・実包の品種・銘柄・銃番号抹消痕等の合致その他の事情を総合すれば、右の三八口径回転式けん銃九丁及び実包七六発のうち、SアソドW三丁(三宅鑑定書の番号一、六、大町鑑定書の番号一のもの)及び実包七六発(原判決別表第二の一の(二)欄の「三八口径用」五〇〇発の一部に照応)は、原判示第二の一の(二)の犯罪貨物、その余のけん銃六丁(三宅鑑定書の番号二から五まで、大町鑑定書の番号二、三のもの、これらは同別表第二の二の(二)欄の「けん銃一九丁」の一部に照応)は、原判示第二の二の(二)の犯罪貨物であると認めることができる。しかも、佐久間国夫がこれらについても前同様に関税法上の犯罪貨物であるとの情を知りつつその所持を開始したと認めるのが相当である。
そうすると、秋吉誠也に対し関税法によらないでした原判示第一の四の(二)の所論犯罪貨物の没収は、これを関税法による没収と同視することができないから、この点に関する原審の判断は相当であるけれども、実質上の関税犯則者と認めるほかない佐久間国夫に対し関税法によらないでした、所論のバツクアツプと付属の実包を含む原判示第二の二の(二)のけん銃八丁及び実包五発並びに原判示第二の一の(二)の三八口径回転式けん銃三丁及び実包七六発の没収は、関税法による没収と同視するのが相当であるから、前記原則により、これらけん銃一一丁及び実包八一発については被告人からその価額(三一万五〇二二円)を追徴することはできないと解すべきである。しかるに、これらのけん銃・実包の分を含めた価額の追徴を被告人に命じた原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがあるといわなければならない。諭旨はこの限度で理由がある。
よつて、未決勾留日数算入の不当を含む量刑不当の控訴趣意に対する判断を省略したうえ、刑訴法三九七条一項、三八〇条により原判決中被告人に関する部分を破棄し、同法四〇〇条ただし書により被告事件について更に次のとおり判決する。
原判決が確定した原判示第一の一から四までの各(一)(二)、第一の六及び七の各(一)(二)、第二の一及び二の各(一)(二)並びに第三の一及び二の各罪となるべき事実に原判決が被告人の関係で適用したのと同じ罰条(観念的競合、刑種選択及び併合罪加重の適条を含む。)を適用し、その刑期の範囲内で処断すべきところ、被告人及び弁護人の量刑不当の控訴趣意にかんがみ、被告人の犯情について考えると、その犯情は、概ね原判決が(量刑の事情)として詳しく説示するとおりであつて、本件は、被告人が共犯者と共謀のうえ九回にわたり営利の目的をもつて税関長及び関係機関の許可を受けないで、アメリカ合衆国で入手したけん銃合計約一一六丁及びけん銃用実包合計約四四〇〇発を密輸入し、その際不正の行為により関税合計三八万二一〇〇円の納付を免れたというそれ自体で社会の平穏に危険をもたらすおそれの多い悪質な事案であること、その回数が多く、密輸貨物の量も大量であること、本件密輸が暴力団組長宮島裕侑の強い指示で始められた組織的犯行であり、ほとんどの本件密輸貨物が各地の暴力団関係者に流れたこと、そのなかには現実に暴力団同志の殺人未遂事件に用いられたものがあること、被告人は、本件密輸の実行を企画したうえ、原判示第一の一及び第三の場合には密輸の実行行為そのものには関与しなかつたものの、その余の場合には密輸の実行行為をも自ら担当し、各実行の中核的役割を演じたこと、密輸の方法が通関手続の心理的盲点を突いた極めて巧妙な手口であること、被告人は、宮島裕侑に支配されて本件密輸を行つたのみではなく、その支配を受けないで、独自の立場でも密輸貨物を販売して、多額の利益を得ていたこと、被告人には財産犯等により三回懲役刑に、わいせつ物販売罪により一回罰金刑に処せられた前科があることに徴すれば、被告人の刑事責任は極めて重いというべきであるから、反面で、被告人の本件関与の発端には宮島裕侑らに陥れられた側面があること、被告人が反省していること、その他共犯者の量刑(ただし、宮島裕侑は原判示第一の一、渡部隆は原判示第一の一、第三の事実のみで有罪とされている)など所論の指摘する諸事情をも十分斟酌したうえ、被告人を懲役六年に処し、本件事案の内容、原審における審理の経過等に照らし刑法二一条を適用し原審における未決勾留日数中二〇〇日を右刑に算入し、押収してある主文第四項掲記のけん銃八丁(当庁昭和五七年押第五五一号の1、5ないし10、17)及びけん銃用実包一四八発(うち、一五発は試射済み、同押号の11、12)は、原判示の没収原因となる各罪に係る輸入制限貨物であるから、関税法一一八条一項本文、三項により被告人から没収し、また、原判決が被告人から没収することができないもの又は没収しないものとして原判決別表に掲記するけん銃・実包については、このうち、前叙のとおりすでに関連する関税犯則者とみられる佐久間国夫から没収され、その所有権が国庫に帰属している原判示第二の一の(二)のSアンドW三丁及びけん銃用実包(三八口径用)七六発、原判示第二の二の(二)の「けん銃」六丁、バツクアツプ二丁及びけん銃用実包(九ミリ口径用)五発の価格合計三一万五〇二二円の分を除き(原判示別表の被告人石戸に関する部分のうち、第二の一の(二)欄のSアンドW三丁九万八〇四一円を削除し、実包(三八口径用)五〇〇発二万〇一三五円を同四二四発一万七〇七四円と訂正し、第二の二の(二)欄のバツクアツプ二丁八万三〇七九円を削除し、けん銃一九丁四一万三五五六円を同一三丁二八万二九五九円と、実包(九ミリ口径用)五〇発二四三三円を同四五発二一八九円と各訂正し、被告人別追徴額欄の額二四五万七三四四円を二一四万二三二二円と訂正するほかこれを引用する。)、更に、共犯者三浦誠、川端文雄、宇野充展、渡部隆及び宮島裕侑から執行ずみの追徴金額合計三一万五九九三円(原判示第一の一の(二)の分五万八九〇九円、第一の五の(二)の分一万〇九二〇円、第二の一の(二)の分五〇〇〇円、第三の二の分二四万一一六四円)を差し引き、その残価額一八二万六三二九円を被告人から追徴し、原審における訴訟費用については刑訴法一八一条一項本文により全部これを被告人に負担させることとして、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 海老原震一 裁判官 和田保 裁判官 杉山英巳)